2016.07.24

五月雨の明月院

 6月23日(木)


 閉門時間からすでに20分が経つが、見事な紫陽花に彩られた参道の石段は、花を楽しむ参拝客で賑やかだ。

 「閉門でーす!!閉門!!」

 業(ごう)を煮(に)やしたのか1人の僧侶が石段の最上段に現れ、声高に叫びながら参拝客を出口へと追い立てるように下りてくる。

 随分前から、石段の最下段辺りに屯(たむろ)しているカメラ愛好家の一団に、オレも加わっていた。
 殿(しんがり)で下りてきたその僧侶が一瞥(いちべつ)をくれながら横を通り過ぎてゆくと、さながら会見場に現れた芸能人にフラッシュがたかれるように、誰もいなくなった石段の光景に向かって、一斉にシャッターが切られるのだった。

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2015.06.21

鎌倉紫陽花行 2015

 6月11日(木)

 大森を5時の始発電車で出発すると、鎌倉の長谷(はせ)へは6時少し過ぎて到着する。

 紫陽花と江ノ電を揃って撮る事の出来る人気スポット『御霊神社(ごりょうじんじゃ)』には、例年ならばこの時間でも2、3人のカメラマンはいる筈なのに、今年は誰もいなかった。

 「邪魔はしないからね」
 笑いながら、境内を掃く年配の女性に声を掛けられた。

 約10分置きに通過する江ノ電を4本撮ったトコロで、少し離れた所に佇む若い女性に気づいた。
 一見して陰のある女性は、もしかしたら少し前から撮影の順番待ちをしていたのに、その陰のせいで気づかなかったのかもしれない…なんて勝手な事を思う。

 「もう1本撮ってもいいですか?」
 「あ、どうぞ」
 大人しそうなのをいい事に、そう断って撮らせて貰った。

 「お先に、ありがとうございました」
 「いえ」

 その場を離れてすぐに、三脚を担いだ2人の中年男性とすれ違った。目的は御霊神社か。
 『女性は、順番の主張をできるのだろうか?』…自分のした事は棚に上げる勝手な男は思った。そこへ、
 「あなた達、先にこのお姉さんに撮らせてあげなさいよ」
 背中越しにあの境内を掃いていた女性のそんな声を聞いて、偽善者ぶって止めかけた足を動かして、極楽寺駅へ向かった。

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2015.05.18

鎌倉文学館 2015

 遠足で訪れているらしい中学生達が、いくつかのグループ毎にローズガーデン(薔薇園)を足早に一巡りしてゆく。
 この時期、薔薇によって文学館の趣(おもむき)は最も映えると思うのだが、中学生という年頃はそういった事にあまり関心がないのだろう。

 『新しい薔薇に名前を付けてみませんか?』
 ローズガーデンを抜けた先にそんなイベントコピーと、机とペンと応募用紙が置いてあった。この手の選考のキーは時事を絡(から)める事だと思い、そこから閃(ひらめ)いた名前もあってペンを取った。

 「シャーロット」

 そう近くで声がして、ペンを止めた。視線を移すと、セーラー服の女学生グループが通り過ぎてゆく。

 「じゃね?」
 「だよね、今なら」
 「それ以外、思いつかない」
 「当然でしょ」

 …シャーロット・エリザベス・ダイアナ。先日誕生した英王女の名前だ。

 のろのろと視線を用紙に戻して、書きかけの『シャ』に横棒を引いた。
 声が聞こえなくなるのを待つと、用紙を丸めてポケットに突っ込み、またローズガーデンへと戻る事にした。

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2015.02.04

ココのトコロ No.29

 蝋(ろう)のように艶(つや)やかな黄色の筈の蝋梅(ロウバイ)の花も、盛りは過ぎたようだった。

 また風邪をひいた

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2014.12.07

ココのトコロ No.26

 11月27日(木)


 紅葉の訪れが遅い鎌倉も、いま歩いてきた森の木々の葉は色づき始めていた。
 歩きながら、昨日我が家へやって来た、9月に雲取山へ一緒に上ったボスの話を思い出していた。

 「昔、誰もいない山頂に、男物のザックがポツンと1つだけ置かれてた事があってな。しばらくしても、誰も現れないんだ。それで気になって、辺りをブラブラ見て回ったりしたけれど、人の気配も影もまったくないのさ。結局1時間ほどして仕方なく下山したんだけれど、あれは気味が悪かったな」

 上りきった六国峠からは、頂を真っ白にした富士山がよく見えた。

 もう12月だものな。 

 
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2014.09.15

夏の終わり

 8月28日(木)


 8月最後の休みは、小雨交じりの寒い一日だった

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2014.07.02

夏の走り

 6月26日(木)


 この日、極楽寺坂切通し(ごくらくじざかきりとおし)を下りながら、確かに、蝉が鳴くのを聞いた


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2014.06.29

稲村ジェーン

 (๑╹ڡ╹)╭ ~ ♡
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2014.06.26

鎌倉紫陽花行 2014

 高校に入学して初めての鎌倉遠足。
 振り分けられた同じ3班には、岸谷慶子がいた。水泳部の先輩達の間でも彼女は人気があった。それだから、普通なら憂鬱になる雨の日の遠足も、ココロが躍った。 長谷寺の山門前の土産物屋で竹で作られたヘビを手に取って見ていると、横から岸谷が「いいの、あるよ」と会計を済ませたばかりの紙袋から、苺の形をした物を2つ取り出して見せた。
 「願いが叶うお守り。班長も買ったら」と勧められて、迷う素振りをして、1つ買った。



 
 「岸谷がB組の黒田と付き合い始めたって噂」
 3年になって、新しく水泳部の副部長になった浩介に腕を掴まれて、ロッカーの陰に引っ張り込まれた。この男の噂好きといったらなかった。掴まれていた手を払って、無言でそこを足早に離れた。担任の仲村に、進路の事で呼び出されていたのだった。
 『ついこの間は、F組の北川と噂になっていたんじゃなかったっけ』
 さっきよりも足取りが、少し重かった。



 ゴトッ…っと音を立てて、冷たい缶コーヒーが自動販売機の取り出し口へ落ちた。
 専門学校の放課後。アルバイト先の駅ビルの地下にある薬局での商品陳列がようやく一段落して、休憩に地上へ上がってきたところだった。
 6月下旬になり、夕方6時といっても外はまだ明るい。周りは帰宅する会社員の往来が激しかった。
 「班長?」
 すっかり忘れていたその響きに、取り出し口へと伸ばした手が止まった。不思議そうに見上げると、
 「やっぱり‼︎」と見覚えのある、愛嬌ある笑顔があった。
 「あぁ、岸谷。なに?こんな所で」
 「営業先がこの近くでさ。班長は?」
 「この下の薬局で働いているんだけど、いま休憩だ」
 「へー。ねぇ、休憩が終わったら、覗きに一緒に行ってもいい?」
 「でも倉庫番が主だから。それに冴えないアルバイト姿、正直見られたくないな」
 と笑うと、
 「いいじゃん、あたし、そういうの気にしないし。でも、それなら、班長がもう少し偉くなってから行くかな」
 肩から下げていたバッグを掛け直すと、
 「あ、ほら、缶コーヒー、忘れないで」
 と、取り出し口から缶コーヒーを拾って、手に持たせてくれた。

 「じゃあ、まただね」
 「あぁ、また」


 あの時はサラッと別れたけれど、それが最後だった。

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2014.05.17

ココのトコロ ⑱

 5月15日(木)


 「今夜は満月だと思いました」

 と言われた事を思い出して、長く沿って歩いていた江ノ島電鉄の線路を離れて、次の角を右に曲がる事にした。そして突き当たる国道134号線を、車の往来に注意して小走りに横断すれば、そこは稲村ケ崎海岸の筈だった。

 いつもより少し大きくて丸い月は、間近に見える稲村ケ崎公園の少し右に浮かび、月光はその下の海面をユラユラと黄金色に染めていた。

 iPhoneのsiri (声で話しかける事で操作できる機能)を起動させて記録しておこうと、「2014ねん5がつ15にちのつき」と話しかけたら、「4028年ノ予定ハ、マダ有リマセン」と返答があった。

 怪訝(けげん)に思って画面に目をやると、『“2014年後”ト、訊(キ)カレタ』と記されてあったから、オレが話し掛けた「2014ねん5」より後の言葉は、どうやら波の音にでも消されたらしい。

 4028年に予定が入っていないと聞いて、「そりゃそうか…」と妙に納得したあと、あらためてシャッターを切った。

 ちなみに地球の寿命は、長くて残り32億5千万年…気の遠くなる数字で、流れる年月のイメージは、さっぱり掴(つか)めなかった。


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