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2017.05.13

八木岡にて

 5月4日(木)


 警笛と共に単線の線路がゴトゴトと小刻みに振動を始めたので、誰もいない寺内(てらうち)駅のホームのベンチから立ち上がる事にした。
 これから下館(しもだて)へ戻るところだった。


 「…ツイてなかったな」
 スマホの連写ボタンから指を離して、走り去る蒸気機関車の後ろ姿を見送りながらつぶやいた。止む事のない強風で、煙突からモクモクと立ち上る筈の黒煙は綺麗にかき消されてしまった。
 「こればかりは仕方がない。また来たらいいじゃないですか」
 「まぁ、そうなんですけどね」
 1時間前に此処で会ったばかりの“撮り鉄”の大柄な男の言葉に、そう答えておいた。

 真岡鐡道(もうかてつどう)のお立ち台(撮影スポット)の1つ、八木岡(やぎおか)
 寺内駅と真岡駅に挟まれた、水田が広がる田園地帯。
 実は此処まで、始発の下館(しもだて)駅から3時間ほど歩いてやって来たのだが、それを聞いたその男に、
 「出来れば、帰りは列車を利用してやって下さい!!」
 と目を見て言われ、その鐡道愛に笑ってしまった。『お金を落としてやってくれ』という事だろう。

 「私はこれから天矢場(てんやば。終点の茂木駅近くのお立ち台)へ行きますが、あなたは?」
 手慣れた様子で三脚を畳みながら、訊かれた。
 「下館に戻ります。このあと富田(とみた)へ行くので」
 「そうですか。ではまた」
 「また」
 そう応答して別れたが、もちろん会う事は二度とないだろう。


 寺内駅に到着した列車は、ゴールデンウィーク最中(さなか)という事もあり、生憎(あいにく)と満員。
 一歩車内へ足を踏み入れると、数秒前まで浸っていたゆっくりとした流れの時間は、喧噪に巻かれて忘れ去られてしまった。 

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